はじめに
今回はマクスウェルの悪魔について初学者に対しても分かりやすく解説していきます!
マクスウェルの悪魔とは
そもそもマクスウェルの悪魔とは何でしょうか?
マクスウェルの悪魔とは、19世紀の現状の熱力学理論が抱える欠陥を指摘する際に生まれたに科学史上の伝説となっている思考実験のことです。
マクスウェルの悪魔は、100年以上にわたって科学的議論の対象になりました。
マクスウェルはこの思考実験のねらいを
「熱力学第二法則の抜け穴を見つけることである」
と述べています。
もちろん、現実にこのような悪魔は存在しません。
例えば
熱は冷たい物体から熱い物体へ移動することはない。
このような熱力学第二法則は人々の直感とも一致するため、正しいとみなされています。
熱力学第二法則は、自然界の現象に関する基本的な法則の一つで、熱が自然に高温から低温へと流れることや熱効率を100%にすることは不可能であることを示す法則です。
これは「エントロピー増大の法則」と言い換えることもできます。
否定しようのないこの事実に対してマクスウェルはマクスウェルの悪魔という思考実験で意義を唱えたのでした。
悪魔の所業
マクスウェルは悪魔を次のように召喚しました。
もし小さな悪魔が存在すると仮定する。その生き物は見ただけで全ての分子の経路と速度を知ることができる。こなせる仕事は、隔壁に開いている穴に取り付けられた質量0の扉を開閉することだけである。
質量0の扉なのでエネルギーは必要ありません。
ここで必要なことは、隔壁両側(高温側と低温側)にある分子1個1個に関する情報を得る能力です。
この悪魔は分子1個1個に関する情報を得ることで次のようなことが行えるようになります。
高温側の中でもゆっくりと低温側の平均スピードよりも遅いスピードで運動している分子が扉に近づくと扉を開け、低温側に通す。逆に低温側で高温側の平均スピードよりも速いスピードで運動している分子が扉に近づくと扉を開け、高温側に通す。
これを続けるとすごいことが起こります。
高温側はさらに高温に、低温側はさらに低温になるのです。
このことは、仕事をすることなく、熱が低温から高温に流れたことを示しており、熱力学第二法則に反していますよね。
もちろん、このような悪魔も質量0の扉も現実世界には存在しません。
マクスウェルが悪魔を召喚してから少しの間は、悪魔が議論にあがっていたようです。
しかし、それから60年間、マクスウェルの悪魔は息を潜めることになります。
シラードの悪魔
その後、レオ・シラードという人物が情報とエントロピーとエネルギーの繋がりを考える際に悪魔を復活させることになります。
レオ・シラードは次のように考えました。
悪魔は、箱の中の分子1個1個の情報を得るという途方もない任務をこなす必要は無い。
どういうことでしょうか。
例えば、分子を無数では無く1個しか箱に入っていないと考えます。
この時、悪魔は無数の分子全てを把握する必要は無く、1個だけを把握するだけで良いこととします。
更に、シラードは分子1個の情報をもっと単純化できると考えました。
それは、箱の「右側」か「左側」のどちらにあるかということです。
例えば、図のような状態で分子が「左側」に合った場合、分子は衝突を繰り返し隔壁が右に押し出されていきます。
そうすると、おもりが徐々に持ち上がっていきますよね。
分子が「左側」にあるという情報を得るだけで、悪魔はおもりを持ち上げることに成功しました
このプロセスは無限に実行することができます。
分子が「右側」か「左側」かという情報1ビットを得るだけで無から有を生み出すことができるのです。
んー。これはおかしい。
なぜなら、仕事を生み出すためには
「熱を高温の場所から低温の場所に流す」
という熱力学第二法則と矛盾してしまうからです。
シラードの考えた悪魔は、均一な温度であっても仕事を生み出してしまっています。
情報を使うことで、熱力学第二法則を克服することができたのでしょうか?
そんなことにはならないとシラード自身が言い切っています。
それは以下の理由からです。
悪魔が分子の位置を測定し特定する際に必ずエントロピーが増大する。
これは、情報を処理すると必ず熱が発生することを示しています。
ここで一旦、この悪魔は息を潜めることになります。
悪魔の退治
しかし、コンピュータが普及し始め、再び悪魔が顔を出すようになります。
情報量が多くなり、コンピュータがかなりの熱を発生させるようになりました。
情報には熱力学的なコストが伴うのかという疑問の解消のために、再び悪魔について考えるように鳴ります。
ランダウとベネットは
「1ビットにかかる熱力学的最小コストはどれくらいか」
という疑問の解決に乗り出しました。
先ほどのシラードが考えた悪魔を思い出してください。
シラードの悪魔がおもりを上げるという仕事をし続けるためにはどこかの時点でビットを消去する必要があります。
新しいビットを保存するためには、以前の測定結果を忘れる必要があるのです。
忘れるという行為が重要です。
忘れることによって熱が拡散します。
そして、その熱はおもりを持ち上げることでされる仕事と相殺される大きさなのです。
実際にトランジスタはスイッチを切り替える度に約1000億分の1ジュールだけ熱を放出しています。
例えば、完璧なトランジスタでできている悪魔のメモリというものを考えよう。
悪魔のメモリは一切の熱を放出しないと仮定する。
しかし、1ビットの情報を捨てるたびに、少しの熱が放出されます。
その量は、1ビットの情報を消去する際に放出される熱の最小量になります。
この量は「ランダウの限界」と呼ばれています。
ビットの処理技術がどれだけ進化しても、ビットを消去すると周囲が少し温かくなります。
もし、エントロピーを増大させずに思考できる機械を作りたいのであれば、データを消去する必要のないコンピュータが必要になります。
しかし、そういった装置の開発は技術的に難しいのです。
例えるなら、ブレーキで充電しそれを燃料に走る車を発明するようなものなのです。
無理そうですよね?笑
まとめ
今回はマクスウェルの悪魔について紹介しました。
ポイントは以下の通りです。
情報を忘れる(消去する)際に熱が放出される
マクスウェルの悪魔についてもっと深く知りたい場合は、以下をチェックしてください!
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