量子コンピューターの実用化について分かりやすく解説

大学物理
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はじめに

IBMや、Google、NTTなどの有名な企業が研究を進めている量子コンピューター。

国産の超電導量子コンピューターも2023年3月からサービス開始となりましたね!

従来のコンピューターと比較してどのような強みがあるのでしょうか?

実用化までにどのような課題があり、解決すればどのような用途に応用できるのか、

今回はそんな量子コンピュータについて紹介していきます。

量子コンピューターが注目される理由

量子コンピューターが注目される理由

学術面と実用面の両方から量子コンピューターに注目が集まっています。

実用面では、量子コンピューターが従来式コンピューター(以降、古典コンピューターと呼びます)の性能を超えそうだという理由から期待されています。

内閣府が進めるムーンショット計画では「2050年までに、経済・産業・安全保障を飛躍的に発展させる誤り耐性型汎用量子コンピュータを実現」することを目標の1つに掲げています。

資料によると、誤り耐性型汎用量子コンピューターがあれば人工光合成の実現や創薬開発の加速へと繋がるそうです。

他にも、量子コンピューターは金融の計算や機械学習にも応用可能だと言われています。

今回の記事では、量子コンピューターについて簡単に説明しながら、活用が期待される分野や、実用化までの課題についても紹介していきます。

量子コンピューターとは

量子コンピューターとは

まずは量子コンピューターについて、簡単な説明します。

量子コンピューターに関する基礎知識

量子コンピューターについて理解するには、量子化学・量子力学よりも古典コンピューターについて知る必要があります。

まずは古典コンピューターの扱う情報について見ていきましょう。

古典コンピューターでは扱うデータをすべて「0」と「1」で表しています。

この0と1で表している情報の単位、すなわち古典コンピューターが処理できるデータの最小単位をビットと呼んでいます。

量子コンピューターの扱えるデータの最小単位は量子ビットと呼ばれています。

0と1のどちらかだけでなく、0と1が重なり合った状態も取りうるため、この新しいコンピューターは「量子」コンピューターと呼ばれているのです。

「重なり合った状態」というのは量子力学の分野では重要なことでしたね。

言い換えれば、古典コンピューターと量子コンピューターの違いは、最小単位が「0または1でしかない(粒子的)」か「0でもあり1でもある状態(量子的)」かの違いだと言うことができます。

量子コンピューターにおいて、量子状態を維持し、かつ量子ビットとして操作する方法は1つではありません。

超伝導状態を利用する方法や、レーザーや光でイオンを励起させる方法などが模索されています。

最適な方法が1つに定まっているというよりは、複数の方法が試されながら、それぞれの課題を発見し、克服する方法を探している段階だと捉えてください。

量子コンピューターの種類

量子コンピュータの演算方式には「量子ゲート方式」「量子アニーリング方式」の2つの方式があります。

量子ゲート方式は、量子ゲート(=量子コンピューターにおける論理回路)を用いて、量子ビットの0と1を切り替えたり、重ね合わせの状態にしたりする方式です。

汎用型で、古典コンピューターと近い計算処理なので、古典コンピューターの計算処理についての知識があれば比較的理解しやすいと思います。

量子アニーリング方式は組合せ最適化問題など、最終的に1つの解に絞り込む計算に強いと言われています。

アニールとは金属や樹脂加工処理の方法の1つで、加工品の変形を防ぐために、熱した金属をゆっくり冷やして金属材料内の残留応力を取り除いています。

量子アニーリング方式では、0と1を重ね合わせてから時間をかけて問題の解を確定させており、この過程がアニール処理に似ています。

量子コンピューターの実用化が期待される用途

量子コンピューターの実用化が期待される用途

量子コンピューターは古典コンピューターよりも全ての分野において性能が上回っているわけではありません。

古典コンピューターを量子コンピューターに置き換えていくのではなく、それぞれが得意とすることを活かしてあげるのが理想的だと言われています。

量子コンピューターが得意とする分野をいくつか紹介していきます。

材料最適化計算

ここからは少し難しい話になります。

ねらいの物性や活性をもつ化合物を設計するとき、分子の三次元構造や配置を正確に計算する必要があります。

この構造最適化計算にはスーパーコンピューターを使っても数ヶ月や数年など、かなりの時間がかかるんです。

分子内の電子状態や相互作用を計算しなくてはならないため、構造最適化計算には時間がかかってしまいます。

しかし、量子コンピューターを使えば、この膨大な計算を短時間で終わらせられるようになると言われています。

すごいですよね!

画像認識

スマホでよく使われている顔認証システムが良い例です。

顔認証システムや、自動運転などの自動化技術では画像認識技術が必要不可欠です。

画像認識システムでは、機械学習を使って素早く大量の画像データを処理しなくてはなりません。

量子コンピューターで大規模な計算を行えるようになれば、リアルタイムで画像を識別し、特徴を抽出して行う画像解析が早まる可能性が高いと考えられているんです。

ディープラーニング

先ほど紹介した画像認識と同じく、ディープラーニングでも大量のデータを用いて事前学習しなくてはなりません。

流行りのchatGPTに搭載されているLLM(大規模言語モデル)でも、大量のデータセットとディープラーニング技術を用いられています。

LLMでは、どれだけ大量のデータをもとに事前学習したかどうかが回答の精度に影響すると言われています。

chatGPTが嘘をつく(=正しくない回答を、あたかも正しそうに回答する)のは、学習が足りないためだと考えられています。

今後、AIの発展を加速させていくためにも、量子コンピューターを使って大量学習させるニーズは高まるだろうと予測されます。

組合せ最適化、暗号

古典コンピューターには解けない計算として有名なのが「組み合わせ最適化問題」です。

わかりやすいところでは、素因数分解や、乗換検索などが挙げられます。

組合せ最適化問題は、取りうる組み合わせの数が増加すればするほど難易度が激増し、古典コンピューターでは答えを出すのが難しくなってしまいます。

量子コンピューターの量子アニーリング方式では、量子重ね合わせの原理を用いることで最適な組み合わせを探す試行回数を爆発的に増やすことができると言われています。

組合せ最適化を簡単に解けるようになれば、宅配の最適ルートや業務効率化など複雑な条件が組み合わさった問題に対して瞬時に答えを出せるようになりますが、数桁の暗号も簡単に解けるようになってしまうというデメリットもあります。

量子コンピューターでは解きにくい暗号「耐量子コンピューター暗号」の研究も同時に進められています。

なんだか面白そうな研究ですね!

量子コンピューター実用化までの課題

量子コンピューター実用化までの課題

量子コンピューターは研究レベルでも実用には耐えられないと言われています。

実用化までに解決しなければならないと言われている、有名な課題を2つ紹介します。

エラー訂正

量子コンピューター最大の課題は、計算中のエラー訂正ができないことだと言われています。

日経サイエンスの特集によると、50量子ビットの量子コンピューターで合計1000ステップの計算をしたら、約63%の確率でエラーが起きてしまうそうです。

エラーを訂正しながら計算を続けられるような、誤り耐性のある量子コンピューター(量子ゲート方式)に向けて研究開発が進められています。

誤り耐性型汎用量子コンピューターの実現目標時期は2050年です。

国内の研究開発プロジェクトについて詳しく知りたければ、ムーンショット目標6関連情報を検索してみてください!

ワークショップやシンポジウムも開かれていますよ!

冷却

研究中の量子コンピューターのいくつかは、絶対零度ほどの超低温環境を作り出さなくてはなりません。

超低温環境が必要な理由は、外部環境などによるノイズを限りなく除去しなくてはならないためです。

こういった環境を作り出し保持するのは、物理を学んでいる皆さんであれば難易度が高いことは想像が付くと思います。

また、設置できる場所にも限りがあるため、そのまま実用化させるのは難しいです。

最近では常温で動く量子コンピューターも登場し始めていますが、どのハードにも一長一短があり、研究者全員が採用する最適なハードはいまだ見つかっていないようです。

まとめ

量子コンピューターは従来の古典コンピューターでは解けない、または解くのに膨大な時間がかかってしまう問題を解けるコンピューターとして期待が寄せられています。

材料最適化や、ディープラーニングなど、他分野の発展にも貢献しうる量子コンピューターは、多くの可能性を秘めた新技術です。

ところが、量子コンピューターの理解には量子論の他にも古典コンピューターの仕組みについても理解しておかねばならず、扱える人材には限りがあります。

実用化までの課題も残されており、解決には30年ほどかかると言われているため、今から参入しても第一線で活躍できる可能性は高いでしょう。

今回の内容は以上です。量子コンピューターについてもっと体系的に学びたい場合は以下の本が参考になります。

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